角田裕毅 Oracle Red Bull Racing 昇格への考察

いやー凄い事になりました。
角田君が遂にF1トップチームの1つであるレッドブルへ移籍(シーズン中の緊急昇格)となりました。これがどれだけ凄い事かというと、よく言われてるのが日本人サッカー選手がバルサやレアルへ移籍する事だとか色々言われてますけど正直私も良い例えが思い浮かびません(笑)。まあ日本における4輪モータースポーツ史においてこの半世紀(50年)で誰も成しえることが出来なかった偉業と言っても問題ないかと。

私自身角田君とは一応顔見知りでありまして、一昨年のF1日本GPではパドック訪問・ピット見学など夢のような時間を過ごさせて頂き角田君とも挨拶や会話が出来たんですけど、初めて対面したのがFIA-F4でチャンピオンを取るちょっと前だったから2018年の秋くらいだったかと。あの時はほんとまだあどけない少年のようなイメージでしたが、それからFIA-F4でチャンピオンを取りFIA-F3へ旅立っていき7年の月日が経ち今まさに本家RedBullのドライバーになったのですから感慨深いを通り越して父親が息子を見るような印象になってしまってます(笑)。ほんとよく頑張ったなあと。

18歳の頃の角田君、今から思えばほんと怖いもの知らずの自信家のような側面を持っていて、ドライバーなら皆そんな感じなのかもしれませんが日本人相手なら絶対負けない的な自分は誰よりも速いという自信・考えを持っていましたように思います。人によっては自信過剰と思われ敬遠されがちな部分もあったかもしれませんが、そういう部分は日本人的考えであってヨーロッパで戦うには必要な資質ではないかと思います。それらをその若さで既に持ち合わせていたというのは今から思えばとても印象的でした。でも食べることに関しては当時から大好きな感じで、お昼ご飯食べにいこうかって誘った時の嬉しそうな顔や、ご飯食べてる時のあどけない表情はまだ子供のような感じでしたしそのギャップにオジサンやられちゃったのかもしれないのですけど(笑)

ちょっと余談が多くなりましたが(笑)本題です。
昨年12月にリアム・ローソン(以下リアム)と角田君のどちらかがペレスの後任として、2025年のレッドブルのシートを獲得するという流れになった時、誰が見ても実績的にも経験的にも角田君一択だったと思いますし私もそう思ってました。でも選ばれたのはリアムであり角田君はレッドブル育成チームであるレーシングブルズ(以下RB)へ5年目の在籍という事になってしまいました。

世界中が「何故?」となりましたし、そう思うのも当然のことで。角田君は数々の刺客とも言われてたチームメイト(デフリース、リカルド、ローソン)を速さで撃破した実績を持っていたにも関わらず「一貫性」が無いという理由でリアムを選択したというのは誰もが「???」と思ったと思います。一貫性って何?ってところなんですが、レッドブル首脳陣にしてみたら気性の部分だったのでしょう。すぐにカッとなってしまって無線で暴言を吐く、という初期のイメージが未だに残っているという事なのでしょう。実際4年目のシーズンではそのような部分は殆ど見えてなかったように思うのですが、ペレスの来季が怪しくなってきた時のシーズン終盤、プラクティスから好調だったメキシコGPで予選でミスしてしまい決勝はスタート直後の接触リタイアという結果も少なからず影響したんじゃないかなと思ってます。

そんな中始まった2025年シーズン。
レッドブル移籍のリアムは全く調子を上げられず、開幕戦のオーストラリアと2戦目の中国GPでは予選最後尾に沈みます。レッドブルチームとしてここまで下位に沈むとは想定してなかったのでしょう。そして中国GPが終わった直後から突如として流れてきたリアム更迭・角田昇格か?という報道。初めは眉唾モノだと思ってましたけど、あらゆるメディアからその報道が出てくるにつれ、F1の世界ではこの報道の出方は飛ばし記事や誰かが移籍を有利にするため流してるデマとかの類ではなくかなり真実が含まれているのでは?という感じに思いましたし、日本でもそれから大騒ぎになったのは皆さんもご存じの通り。

まずリアムに関してですが、個人的には自分の実力を殆ど出す事も出来ずに切り捨てられたという印象しかなく本当に気の毒だと思います。僅か2レースですからね。1年走って交代でも早いと思うのにたったの2レースですからね。マックススペシャルと言われてる(個人的にはそうじゃないと思いますけど)今季マシンRB21がとんでもなく乗りにくいマシンであるのは間違いないのに、その責任の全てを23歳の若者に押し付けるのは気の毒という言葉以外何も見つからないという気持ちです。レッドブルチームでF1を走るというのが子供の頃からの夢だったと公言しているリアムにとって、この2025年の現時点までは思い出したくないくらいの辛い記憶になってしまったかと思いますが、そもそも初走行のコースばかりであったSUPER FORMULAでもあれだけ速く走れたんですし本人が遅いという事は決してないでしょう。誰がどう見てもRB21のマシン側に問題があると思われるんですが(実際マックスもマシンに問題があると言ってる)それに慣れる・改善する前にクビなんですから。

シーズン前のテストもトラブルで思うように走れなかったですし開幕オーストラリアもPUトラブルで貴重な走行時間を失い、マシンに信頼が出来ない状態でQ1落ち。中国GPも根本的な解決が出来ない状態のままスプリントフォーマットのため、これまた走行時間が限られていきなりスプリント予選や決勝を走る状況になってしまえばうまくいかないのも仕方のない事。この状況下でクビなのですから気の毒というしかないです。勿論、最初から角田君を選んでいたならこんな騒動になる事もなかったはずですので、チーム首脳陣側も猛省してほしいところなんですけどね(絶対しないでしょうけど)。

とはいえ、ここまで即時即断したのは他にも理由があるのかもしれません。
当然チームにはこの2レース分の走行時の豊富なデータがありますし4度の世界王者であるマックスとの比較をデータから読み取ることも出来るはずです。そこでもしかしたら簡単にはペース改善出来ないであろう決定的な何かがあったのかもしれません。要するにリアムの走行データを見る限り短期的な改善が期待できなかったレベルでドライビングスタイルがマックスと違っていたのかと。そしてマックスも不満を持っているであろう今季マシンの仕上がりとチーム内のゴタゴタを考えても、隙があれば他チームへの移籍を頭の中で考えていてもおかしくありません。マックスレベルのドライバーとなるとチーム契約の中に「パフォーマンス条項」なるものが存在していてもおかしくありません。例えば2025年シーズン終了時もしくはシーズン中盤までにチームランキング3位以下とか4位以下なら契約解除して他チームへ移籍出来る、という条項があるとかそういう事です。現在のリアムのデータを解析して短期的に改善は難しいとチームが判断したなら、それは即ちポイントを取れるドライバーが1人しかいないのでチームランキングが厳しくなるという事です。マクラーレンは2人のドライバーとも確実に上位を争ってますし、メルセデスは新人とは言え上位に顔を出してきています。フェラーリはハミルトン加入で間違いなくこれから脅威になるでしょう。それを考えるとレッドブルの置かれた状況を放置してるとランキング4位、若しくはそれ以下に落ちる可能性だってあり得ます。そうなるとランキングに応じた分配金収入は激減するので株主やレッドブル本社の首脳陣も黙ってないでしょうし、何よりもマックスの契約期間である2028年末まで保持する事も今のままだとかなり厳しいと読んだのではないでしょうか。

レッドブル本社からの突き上げ、マックスの移籍条項が発動する恐れ、リアムの直近でペースが回復するとは思えないデータ結果。そういう複合的な部分が判断を急がせたのだと思います。たった2レースでの決断ですからね。本来これは異常事態ですから。

そして一番重要なのは角田君の成長ではないかと思います。
開幕前テストの段階でレーシングブルズのメキース氏がコメントしていたように「ユウキは昨年とは違うユウキになって戻ってきた」と。マシンをよくするための積極的なフィードバックやチームリーダーとしてチーム全体を鼓舞するような振る舞いなど、明らかに何かが変わったように思えます。その一番の要因は昨年末にレッドブルドライバーに選ばれなかったことが大きいでしょう。

未だに古いイメージ(精神的に未熟)を引きずられていること、その部分を改善しようとこれまでも努力してきたことだと思いますが、絶対に評価を変えてみせるという強い意志があったのだと思いますし、何よりも角田君には結果を残す事しかやれることは無いという点です。これまでもそうしてきましたが、今年はその部分を強く意識してシーズンを迎えたのではないでしょうか。それがメキース氏の言葉になって現れましたし、オーストラリアではチームの判断ミスが無ければ4~5位あたりでチェッカーを受けててもおかしくなかったですし、中国GPでも再び戦略ミスがあったりマシン破損があったりで散々な結果になりましたが、それが無かったらこれまた6~7位辺りでチェッカーを受けててもおかしくなかった。戦略が絡まない予選やスプリントレースでは見事な結果を残した。誰がどう見ても角田君はやれることを完璧にやっていたと思います。そして重要だったのは2回もチームの判断ミス・戦略ミスがあって普通ならブチ切れてもおかしく無いような状況の時にチーム無線でチームを鼓舞していたこと。「まだレースは終わってないよ!」と。これは本当に凄いと思いましたし精神的にも凄く成長したんだなと思える印象的なシーンでした。この開幕2戦で角田君がやれることをしっかりやった、そして精神的な部分での成長をはっきり見せたこと。これが無ければレッドブルチーム首脳が角田君を昇格させなかったかもしれません。それくらい大きなイメージチェンジだったのではないかと今は思えるんです。

リアムは再びレーシングブルズへ戻る事となり慣れ親しんだ鈴鹿を心機一転走ることになります。今年のレーシングブルズのマシンの状態、ドライバーレベルからして間違いなく上位に来るでしょう。Q1落ちしてた状況がそもそもおかしいのですから。アイザック・ハジャーが今年新人ながら躍動してますので、ここでチームメイトに負け続けるような事になるとドライバー人生の終焉を迎えかねませんので、心底頑張ってほしいなと思いますし子供の頃の夢であったレッドブルレーシングへ再び昇格できることを願ってやみません。

そして角田君。
世間ではチャンピオンチーム移籍だ!優勝も狙える!ワールドチャンピオンも夢ではない!と大騒ぎしてますが、勿論そうなってくれたら本当にうれしいのですけどそう簡単では無いと思います。まず何よりRB21というマシンが一体どんな状態なのか。リアムがあれだけ乗れなかったマシンです。しかもリアムはまだシーズン前テストを不完全な消化ではあるものの走った経験を持って開幕に挑んでいますが、角田君はぶっつけ本番でいきなり鈴鹿を走ることになりますので、いかに4年のフルシーズン経験があるとはいえこればかりは不確定要素だらけでどうなるのか全く見えません。最悪Q1落ちの可能性すら否定できないのですが、幸いなのは鈴鹿からの3連戦はずっと通常フォーマットで走れること(FP1からFP3までしっかり練習走行が可能)。まずは鈴鹿のFP1が大注目です。どれだけしっかりマシンにアジャストできるのか、少しはそこで見えてくるかと思いますし世界中のファンがその部分を見つめることだと思います。FP1からFP3までしっかりマシンを理解していき、予選で最低でもリアム以上の結果を残せるのかどうか。リアム以上というのは個人的には鈴鹿ではQ1突破という事ですが、Q2落ちだったとしても11~13位辺りに行ければ上出来じゃないのかなと思っています。Q3進出ならとんでもない事でしょう。勿論レッドブルチームはこのドライバー交代は「即時結果を求める」ための判断のはずなので、リアムと同じような結果が続くとまたややこしい状況になってくる事も否定できません。

勿論リアムが2戦乗って最後方に沈んだことが結果として既に出ているので、これで角田君が乗っても全然ダメだった場合、ドライバーがダメなのだという考えよりもマシンがやはりダメなんだという考えを大勢が持つと思います。その点で考えるとリアムがクッションとなった現状はある意味ラッキーだったかもしれません。そして逆の結果であれば角田君の評価はとんでもない事になるでしょうね。人生が変わるレベルで。

角田君が昨年末にRB20をアブダビでテストした時に「このマシンがチャンピオンを争った理由が分かった。マシンは快適で直ぐに限界を知る事が出来た」と語ってました。あれだけペレスがシーズン後半に苦しんだマシンで。そういう意味では角田君の好みは現在のレッドブルのマシン挙動に合ってると思えますし、今年のマシンが昨年型RB20とどれだけ違うのか分かりませんが、世界を驚かせる結果を鈴鹿で見せてくれる可能性もゼロではありませんし、もしかしたらQ1落ちしてレースも後方を走っているかもしれません。勿論ここからの3連戦はアップデートは期待できないので鈴鹿で厳しいとその後も厳しいかもしれませんが、角田君にとって幸いなのは鈴鹿・バーレーンと得意コースが続く事です。そしてその後のヨーロッパラウンドが始まる5月のイモラ。ここから大きなアップデートが入ってくると思いますので今の非常に乗りにくいであろうRB21の改善が図られさらにペースアップが出来ていければ文句なしなのですが。

一体どうなるのか予想出来ませんし期待半分・不安半分以上ではありますが、角田君が昇格直後にコメントしていた「挑戦する覚悟は出来ている」という言葉をとても力強く感じます。この状況はまさに「覚悟を決めてやるしかない。そしてその先に凄い未来が待っている」ということなのですから。このチャンスはこれまでどの日本人ドライバーも得られなかった物凄い大きなチャンスである状況なのは間違いありません。日本4輪モータースポーツ史において歴史が大きく動いた昨日。きっと彼ならやってくれることを信じています。

2025年4月4日金曜日に開幕するF1日本GP。
午前中に行われるフリープラクティス1でとんでもない大声援を受けながらRB21に乗る角田君を見れるのが今から楽しみでなりません。

そして世界を驚かせる走りを見せてくれることを願って。

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